ほとんどのブランドは、最小ロットにまず障害として出会います。承認したサンプルと最初の生産のあいだに立ちはだかる数字で、しかも誰かが別の決め方もできたはずの数字に見える。そう読むと、話が間違った方向へ進みます。その数字が何から出てきたのかを尋ねる代わりに、数字そのものを値切る話になってしまうからです。
最小ロット、英語で言う MOQ とは、製造側が一回の生産で引き受ける最小の数量です。目標でも、交渉の初手でも、その仕事をどれだけ欲しがっているかの表明でもありません。出力です。設備、包装資材、原料、ロットの大小にかかわらずかかる費用。それらが一つの数字に収束し、その数字が見積書に載ります。この記事はその制約と、制約どうしの組み合わさり方についてのものです。数字が出てからどうするかについては、最小ロットを実際に決めているものにまとめてあります。
最小ロットは方針ではなく算数です
見積もられた下限の後ろには必ず、一つの問いに答えている計画担当者がいます。どの数量を下回ると、この生産は返ってくるものより作るほうが高くつくのか。問い自体はありふれています。ブランドが驚くのは、その答えのうち、見積もりを出す当人が動かせる部分がいかに小さいかです。
入力は、問い合わせが届くずっと前に固まっています。撹拌釜は特定の規模で買われています。資材の供給者はそれぞれの条件を持っています。充填ラインの洗浄には、ロットが短くても長くても同じ時間がかかります。製造側が決められるのは、短いロットでどれだけの利幅を受け入れるかくらいで、裁量はおおむねそこまでです。
「もう少し下げられませんか」に丁寧なはぐらかしが返ってくることが多いのは、これが理由です。正直に返すなら「何を下回って、ですか」になります。数字はいくつもの制約を要約したものであり、そのうち実際に線を引いているのは一つだけだからです。
製造側もまた、下限のある買い手です
説明の見落とされがちな半分は、工場もまた顧客であり、自分自身の下限を抱えているということです。
原料は決まった単位で届きます。 美容成分、乳化剤、増粘剤、香料は、決められた荷姿で売られます。ペール缶、ドラム、密封された袋です。高価な美容成分をわずかな比率で使う処方でも、その原料は一単位まるごと必要になります。残りが次の注文に回るなら扱えますが、回らなければ実費です。開封した原料には再試験の期日がつき、二回目の生産をいつまでも待てないからです。特殊な原料はこれをさらに重くします。受注してから上流で製造されるものもあり、それ自体のリードタイムと下限を持っています。
包装資材もまた、それぞれの採算を持つ工業製品です。 ボトルは成形され、ポンプは複数の部品から組み立てられ、チューブは押し出して口部を付けます。既製の資材は在庫から出るので、かかるのは商社の下限です。積み上がった数字のなかではたいてい最も緩い数字になります。専用の資材には金型が要り、金型は切るだけの費用を回収できる数量があってはじめて成り立ちます。容器の判断こそが数字を決めていた、ということがこれほど多い理由であり、容器の開発を早い段階で話に入れる理由でもあります。
つまりブランドが「工場の最小ロット」として受け取るものの一部は、そのまま通過してきたものです。製造側に手渡された床が、そのまま手渡されているのです。
一個ではなく、一回の生産に付く費用
数字の残りは、小さくしても減らない費用から出てきます。
釜には床がある
撹拌設備には寸法があり、正しく作るためにはバルクが釜のある程度を満たしている必要があります。乳化は特定の形状のなかでせん断をかけて起こすものです。ホモジナイザーは決まった深さに位置し、熱はジャケットの壁を通ります。釜が浅すぎるとホモジナイザーは中身を十分に処理できなくなり、温度の制御も不均一になり、出てくるものは承認されたサンプルとは限らなくなります。これは方針ではなく物理であり、床は処方の系ごとに違います。無水のスティック、重いクリーム、軽い化粧水は、低い充填率で同じようには振る舞いません。
ラインは止めて、洗って、組み直す
生産の前に、充填ラインは分解され、洗浄され、殺菌され、確認され、容器の形状に合わせて組み替えられ、それから流し始めます。最初に通る何本かは売り物ではなく捨てるためのものです。生産の後には同じ手順が逆向きに走ります。この時間は短いロットでも長いロットでもほとんど変わらないので、ロットが短いほど、一個あたりの費用に占める切り替えの割合は大きくなります。しかも押さえたライン枠を、埋めきらないまま消費することになります。
段取り費は一件ごとに付く
加飾がいちばん分かりやすい例です。シルク印刷には色ごとに版が要り、ホットスタンプには型が要り、ラベル印刷には採算の合う最小の刷り数があります。どれも一件につき一度払い、その件に含まれる本数で割ることになります。デザインの校正も同じように振る舞います。
試験と書類は処方ごとの値段です
安定性試験、保存効力試験、ロットの書類は、かかるものはかかります。短い生産だからといって少なくて済むものは一つもありません。分散させる本数を探している、固定の支出の塊です。新しい処方の初回生産が、確立した処方の反復生産より高い床を持つのはそのためです。この作業の中身は品質管理とロットの書類にまとめてあります。安定性試験が何をいつ教えてくれるかは、そのまま日程に跳ね返ります。
合計ではなく、いちばん大きい下限になる理由
つい足し算をしたくなります。そういう組み合わさり方はしません。
生産はすべての制約を同時に満たさなければならないので、見積もられる数字はそれらのいちばん大きいものであって、合計ではありません。一つが縛り、残りは余裕を持ってその下にいます。この帰結ははっきり言っておく値打ちがあります。縛っている制約以外を変えても、何も変わりません。専用ボトルが数字を決めていたのに処方を簡素にしたブランドは、仕事をして何も得ていません。
どれが縛るかは固定ではありません。案件ごとに移りますし、一つの案件のなかでも容器の方向やベース処方が変われば移ります。同じ製造側が同じカテゴリーの二製品にまるで違う下限を出すことがあるのはそのためで、容器のルートを知らないまま出た数字がほとんど意味を持たないのもそのためです。
二社の見積もりが食い違う理由
同じブリーフを渡しても、力のある工場が二社あれば違う下限を出してくることがよくあります。その差が意欲の差であることはまれです。いちばん大きいのは設備の規模です。国内の長い契約を軸に建った工場は大きな釜を持っており、小さな釜は資本の判断であって、そちらには踏み込んでいないことがあります。供給者との関係も効きます。ある資材を多くの顧客にまたいで流している製造側は在庫から引けますが、別の製造側は取り寄せることになります。
いちばん効くのは、それぞれの見積もりが置いている前提です。一方は既製の容器と既存のベース処方で答えているのに、他方は専用の資材と新しい処方を想定していることがあります。その二つの数字を並べても、何も比べたことになりません。低い下限が自動的によい条件だとも言えません。後の注文まで縛ることになる小さな釜を映していることもあれば、包装資材が黙って外されている見積もりであることもあります。
最小ロットではないもの
関心の度合いではありません。 高い床は設備と供給の仕組みを語っているのであって、乗り気かどうかを語ってはいません。製造側が、利益の出る数量を断ることはまずありません。
工場に固有の性質ではありません。 「うちの最小ロットは X です」は、典型的な形をした典型的な案件についての略語です。形の違う案件に当てはめれば当て推量です。
単価と切り離せるものでもありません。 最小数量と単価は、同じ固定費の算数を別の側から見たものです。単価が上がることを織り込まずに数量だけ下げてくださいと言うのは、算数に働くのをやめてくれと頼むことです。
どちらの向きにも品質の指標ではありません。 低い床は小ロット向けの設備を意味することがあり、高い床は規模を意味することがあります。どちらも、製品がどれだけよく作られるかについては何も語っていません。
渡された数字を読む
見積もられた下限は、ほどいた瞬間から役に立ちます。四つの問いでほとんどが片づきます。
- この数字を決めたのはどの制約ですか。 バルクの仕込み、容器、包装資材、加飾、日程のどれか。答えで、何かが動かせるかどうかが決まります。
- 容器について何を前提にしていますか。 既製と専用は別の案件であり、その差はほかのすべての要因を合わせたものより大きいことがしばしばあります。
- 品目ごとですか、バルクごとですか。 一つのベース処方を共用するバリエーションなら、単独では届かないバルクの下限を一緒に越えられることがあります。
- 初回だけの数字ですか、反復生産にもかかりますか。 開発と試験は、ほぼすべてが初回のほうに乗っています。
この答えは、数字を案件についての情報に変えます。そこから会話は交渉ではなく計画になります。既存のベース処方を使ったプライベートブランドの案件のほうが、専用の処方を専用の容器に入れるより早く棚に届くという、正直な可能性も含めて。最初の立ち上げなら小ロットでの生産から始めるのが筋のよいやり方だということも含めて。
よくあるご質問
MOQ とは何の略で、実際に何を測っているのですか。
Minimum order quantity、日本の業界で言う最小ロットです。製造側が一回の生産で引き受ける最小の数量を指します。どこから先で生産が成り立たなくなるかを示すもので、設備の規模、供給者の下限、ロットの長さにかかわらずかかる費用から決まります。製造側がその仕事をどれだけ欲しがっているかは測っていません。
なぜもっと小さいロットで作れないのですか。
制約のいくつかが商売上のものではないからです。撹拌釜には、それを下回るとせん断も温度の制御も承認されたサンプルを再現しなくなる充填量があります。原料と包装資材は決まった購入単位で届きます。製造側は短いロットで利幅を削ることはできますが、設備が正しく作れないロットを作ることはできません。
最小ロットは品目ごとですか、処方ごとですか。
どの制約が縛っているかによりますので、直接お尋ねになる値打ちがあります。バルクが縛っているなら、一つのベース処方を共用する二つのバリエーションで一緒に越えられることがあります。容器や加飾の段取りが縛っているなら、それぞれに固有の資材と段取りがあるので、品目ごとに下限を背負います。
見積もりの下限が低ければ、融通の利く製造側だということですか。
そうとは限りません。設備が小さいことを映しているのかもしれません。それは最初の立ち上げには役立ち、後になって制約に変わります。あるいは、他方が専用の資材を想定したのに対して既製の資材を前提にした見積もりなのかもしれません。低いほうをよい条件と見なす前に、それぞれの数字が何を含んでいるかを比べてください。
二回目以降の注文では最小ロットは変わりますか。
変わることが多く、たいていは下がります。開発、安定性試験、初期の書類は初回の生産に乗っています。反復生産では処方が確立しているので、残る制約は物理的なものだけです。最初のお見積りの段階で後続の数量をお伝えいただくと、初回にできることまで変わることがよくあります。
